日本鍼灸医学 経絡治療・基礎編
1997年6月発刊 会員頒布用
執筆者(順不同)

 岡部素明、岡田明三、首藤傳明、池田政一、相澤 良、樋口秀吉

序(基礎編より)
本書は、日本の伝統鍼灸医学実践のための書である。
日本の鍼灸医学は、二千数百年前に古代中国で生まれた鍼灸医学が古典医学書とともに日本に少しづつ伝来し、長い歴史の中で我が国独自の発展を遂げた伝統医学である。
 思想や哲学と科学が未分化の時代に生まれた医学故に、科学としての西洋医学とは全く異なる観点に立って、診断し治療するという理論体系を持っている。すなわち、社会的に実在する人間を全人格的、全身体的な人間として診断治療する医学であって、科学的に分析した人体を対象とする医学ではないのである。それゆえ、人間を人間としてありのままにみつめる人間学として、充分に今日的価値を有するのである。
 鍼灸師は、病に苦しむ人と人間対人間の関係の中で共に生き、自分の持っている力のすべてをささげる、誇り高き仕事である。
 伝統鍼灸医学は心も身体もそして生活する人間そのものも統一的に把えて治療することによって、より直截にその目的をかなえてくれる。まさしく人間学そのものなのである。そして、その第一歩は、陰陽や五行といった学理を深く理解することから始まるのである。従来、経絡治療学会では脈診、刺鍼などの実技指導に重点を置いてきたが、今後は本書を教科書として、誰にでも理解しやすいように解説し教育して行く予定である。
 学理も技術もそして人間も磨かなければ臨床に役立たないからである。
 会員諸氏が本書を熟読し、あわせて実技指導を受け、自身の臨床に役立たせることを期待している。
 最後に、伝統鍼灸医学の復興・維持・発展のため、文字通り心血を注いで努力された先人・先哲に深甚なる感謝を申し上げ、本書を捧げるものである。
1997年3月 経絡治療学会 前会長 岡部素明(故)